Things I Didn't Know

BTSと韓国ミュージカルが好きです。

【韓ミュオタに色々聞いてみた】第2回 mocaさん編

こんにちは、私です。先日公開した韓ミュオタインタビュー第1回を読んでくださった皆様ありがとうございました。ノアさんと共通のお友達からジャンル外の方まで読んでいただけたようで色んな方面から感想いただけて嬉しかったです。

ということで、さっそく先日の渡韓の際に第2回インタビューにご協力いただきました。第2回は韓国の小劇場街・大学路沼にお住まいの方にぜひと思いお話を聞いてきましたよ。

私も片足つっこんでしまっている小劇場沼。韓国のミュージカル俳優さんは大劇場と小劇場を行ったり来たりされる方も少なくはなく、あのホン・グァンホさん(※WE『ミス・サイゴン』トゥイ役)ですら近年でも小劇場の舞台に立たれることがあるのです。(もちろんチケットは争奪戦)それゆえ小劇場といえど歌の上手さには遜色がなく、さらに近い距離で細かい表情まで楽しむことができるという。あまりに贅沢でめまいがします。これからもっと勉強していきたいと思っているので、今回はとても勉強になりました。小劇場沼、深すぎる…。

 

《大学路(テハンノ)とは?》

ソウル・恵化駅周辺エリア。昔ソウル大学がここにあったことからこう呼ばれているそう。中小の劇場がひしめき合う芸術・文化の街で、ブックカフェやライブカフェもあり、公園では路上パフォーマンスも。駅の改札を出たところから周囲はミュージカル・演劇のポスターだらけで、歩いているだけでわくわくするエリアです。20代くらいの若い客層で賑わう大学路では日本円にして2000~3000円程度で観られる公演も多くあり、とりあえずここへ来てみて目ぼしい公演があれば当日券を求めるという観劇スタイルも多いよう。

 

◆今回インタビューした方

【お名前】mocaさん

twitter모카(๑˃̵ᴗ˂̵) (@rebekkamoco) | Twitter

【ブログ】Fika MocA Dagar ♡ 韓国ミュージカルへの探求+α〜大学路/福岡

【本陣(最推し俳優)】カン・ピルソクさん

【その他推し俳優】チョン・ムンソンさん、その他多々

【韓ミュ以外の好きジャンル】韓国では演劇・伝統芸能・ノンバーバルパフォーマンス、日本では歌舞伎・ミュージカル・演劇・狂言能楽など

【初めての韓ミュ観劇】スリルミー、南漢山城(2009年)

渡韓歴の長いmocaさん。ミュージカルのみならず演劇もたくさんご覧になっていて、韓国語レベルも高いのでわからないことがあったら教えていただける頼もしい方です!観劇以外にも美容にグルメにと韓国を楽しんでらっしゃって、興味の幅広さには驚かされます。韓国ミュージカルはカーテンコールが撮影可能になる公演が多いのですが、mocaさんはいつも素敵なカテコ写真を撮影されてるので、そちらも併せてご紹介しますね。※記事の最後に『スリルミー』ネタバレ注意ゾーンを設けております。

 

◆「何だかよくわからないけど面白い」

—韓国ミュージカルを好きになった経緯を教えてもらえますか?

もともとアジアの文化には興味がある方だったんですよ。福岡在住なんですが、福岡はアジア映画祭などもやっていて、中国・韓国の文化に触れられる機会も多いんです。その中で香港映画に興味を持ち、レスリー・チャンを好きになって、大学では中国の芸術社会と文化を学んでました。街を歩いていても韓国人の方は多いですし、博多から釜山までは高速フェリーで3時間、飛行機で30分で行けるので、韓国に対する壁はまったくなかったですね。最初に韓国の文化に興味を持ったきっかけはSHINHWA(※2001年日本デビューのK-POP男性アイドルグループ)でした。ファンコミュニティの中で韓国人の友達ができたので、その子に会うために韓国へ行こうということになって。そこで「これ面白いから行こう」って連れて行かれたのが2009年の『スリルミー』(笑)(※韓国では2007年初演。2017年まで10年連続して再演しています。)

—初っ端から『スリルミー』(笑)ミュージカル自体は日本でもよくご覧になってたんですか?

いえ、まったく。小学生の時に観た劇団四季の『キャッツ』だけでした。しかも2009年当時は韓国語もほとんどできなかったので、正直何もわからなかったですよ。当時の演出で“私”役がその場で一周回って場面転換するというものがあったんですが、それが日本の狂言と同じだと思ったのははっきり覚えてます。でもわからないなりに「舞台表現が面白かった」というイメージだけは残っていて、翌年にも来て今度は1人でまた『スリルミー』を観ましたね。

—まったく言葉がわからない中「今度は1人で来よう」ってなるのが凄いですね!?

中国の芸術文化を学んでたんで、言葉がわからないままパフォーマンスを観ることに特に抵抗がなかったんです。インターパークのグローバルサイト(※英語・日本語・中国語に対応)があったので、チケットを取ることのハードルが低かったことも理由の一つです。そこから年に数回渡韓することになったんですけど、インターパークで軽くあらすじだけ読んでフィーリングでチケット買ってましたね。ジャケ買いって感じで。ソウル以外の地方にも行ってみたかったから、その時やってる地方公演を調べて釜山とかにも行ったり。そうやって韓国のミュージカルを観るようになって、日本の劇場にも行くようになりました。日本版『スリルミー』も観ましたよ。そこで韓国版でわからなかったことを確認できました。ミュージカル以外にも、演劇、歌舞伎、能、狂言まで興味が広がっていって。とにかく「もっと舞台を見る目を肥やしたい」って思うようになったので、そのためには幅広く色んなものを観なければと。

—韓ミュきっかけに世界が広がったんですね。エエ話や…。渡韓の頻度ってどのくらいでした?

しばらくは年に1〜2回くらい。2013年頃から『スリルミー』に出ていた俳優さんの出演作を追うようになって増えました。回数はちょっと恐ろしくて数えられない。多い時は3週連続とか…。その頃からは大学路の劇場ばかりに行くようになりましたね。韓国の俳優さんって、演技が自然で舞台の上で生きてるって感じがする。それが特に感じられるのが小劇場ですね。やっぱり近い距離で観れるからそう感じるのかもしれません。

 

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〈mocaさん撮影〉2016年『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』カーテンコールより。写真右がmocaさんの本陣様であるカン・ピルソクさん。愛称は「妖精」。

 

◆大事なセリフを言わなかったピルソクさん

—本陣カン・ピルソクさんとの出会いはどちらで?

実は最初に観た2009年の『スリルミー』なんですよ。(※ピルソクさんは“私”役で出演)でも当時は俳優さんとかわからないから、2015年にもう一度『スリルミー』でピルソクさんを観て「あの時この人を観てたんだ」と。そこから気になるようにはなったんですが、本当に好きになったのはその後の『アガサ』(※アガサ・クリスティの失踪事件を描いた創作ミュージカル)から。ピルソクさんのロイ役はトリプルキャストで、私は他の方のロイ役を先に観ていたんですけど、ピルソクさんは終盤、ロイのとあるセリフを言わなかったんです。それは主役アガサとロイの関係を表すようなセリフだったんですが、それが抜けたことで私の考えていたアガサとロイの関係性が覆ったんです。ピルソクさんはロイという役を他のキャストとは違う解釈で演じていたんだと気付きました。あとで聞くと、ピルソクさんの演じたいロイ像にどうしても合わないセリフだったから演出家と話し合ったうえで外されたそうです。

ー韓ミュは俳優自身の解釈が反映されやすい風土ですけど、台詞まるごと無くしちゃうってなかなかですね。

実力のある俳優さんならそこまでのことが許されるんだと驚きました。ピルソクさんは、表現したいものをしっかり持っていてそれを絶対曲げない方。演技に関しては鉄筋コンクリートみたいな俳優さんなんです。すごく面白い方だと思ったし、キャストを見比べていたことで自分がその思いを受け取れたことも嬉しかった。それにピルソクさんが出る作品は私の好みに合ってるんです。「この人を見守りつづけていけば面白い作品に出会える」っていう信頼感がある。もう1人好きな俳優さんがチョン・ムンソンさん(※『死の賛美』『ヘドウィグ』などに出演)なんですけど、こちらはどんどん変化をつけてシーズンの最初と最後では全然違う演技になっちゃうこともある、スポンジみたいな俳優さん。ピルソクさんとは真逆ですね。自分を貫く人もいれば、柔軟に変化させていく人も。大学路には色んな俳優さんがいて面白いです。

ー作品の表現の幅を広げるために、敢えて違うタイプを同役にキャスティングしてる感じがしますよね。

ピルソクさんのセリフの件に気付けたのは先に他のキャストを観てたからだし、『アガサ』で見比べる面白さを実感しました。俳優さんと作品に力があれば演技だけで伝わるんだなと学んだので、それ以降は予習を最低限にとどめてなるべくまっさらな状態で観劇に臨んでます。

―それができるのはベースにしっかりとした語学力があるからですよね…。私もそこを目指したいです…!

でも私は3ヶ月の語学留学で基礎の基礎を学んだ以外は、特に勉強とかしてなくて。ひたすら観劇で語彙を増やしていきました。だから「殺人」とか「事件」とか普段使わない単語ばっかり覚えてくんですよね…。演劇を観るのは語学力向上のためでもあるんです。演劇で耳を慣らすと、ミュージカルの聞き取りが楽にできるようになりますよ。

あと観劇のこだわりとしては、複数回観る時には前方・真ん中・最後列と席を変えるようにすること。上手い人はやっぱり最後列まで演技を届けられるんですよ。『ヘドウィグ』はそれが特に顕著に出る作品なんですが、チョ・スンウさん(※他に『ジキルとハイド』など。ドラマや映画でも活躍。)のヘドウィグは2階席までしっかり巻き込んでて凄かったですよ!

 

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〈mocaさん撮影〉2014年、2015年『死の賛美』カーテンコールより。左の写真がチョン・ムンソンさん。

 

◆「とにかく幅広く観る」がポリシー

―そんなmocaさんが特に印象に残ってる作品って何ですか?

最近だと、2016年の演劇『報道指針』とか。軍事政権下の韓国で、言論統制が敷かれていた時にそれに抵抗したジャーナリストの話なんですけど、公演当時のパク・クネ政権を揶揄した部分があったりして面白かった。演劇は社会性の強いものが多いですね。

演劇『悪い磁石』も。(※スコットランドの劇作家ダグラス・マックスウェル作『Our Bad Magnet』の翻訳劇。韓国では2005年初演。)4人の青年が9歳、19歳、29歳のそれぞれの思い出を行き来していくお話。『スタンド・バイ・ミー』のように若者の青春と友情が描かれてて余韻が残ります。

はじめて1人で観劇した時に『スリルミー』と一緒に観たミュージカル『兄弟は勇敢だった』にも思い入れがあります。仲違いしている兄弟が主人公のコミカルなテイストなんですけど、家族愛が描かれてて良い作品です。韓国の季節行事とか伝統が色々と出てきて韓国文化の勉強になるんですよね。

それから2015年の演劇『フローズン』(※トニー賞にもノミネートされたイギリスのブライオニー・ラヴェリーの作品。少女誘拐殺人事件の犯人・被害者の母親・精神分析医をめぐるストーリー。)今の自分の韓国語力よりもハイレベルなものに挑戦したくて観た作品。すごく難しかったけど、俳優さんたちのお芝居が奥深くて心に残りました。韓国語レベルを上げてまた挑戦してみたい作品です。

―普段、作品選びはどうしてるんですか?

ピルソクさんが出るものは観ることがほとんどですが、幅広く観るためにもなるべく偏らないようにはしてます。行きつけのカフェで時々いただく招待券で知らない演劇を観るということもあるし、フィーリングで、その場の直感で選ぶことも多いですね。決まらなければぶらぶらしてればいいか、くらいの気持ちで。今日このあと観る作品もまだ決めてないしね(笑)(※日曜のマチネ前でした!)友人Mに「一緒に観てあらすじを説明してくれ」って誘われてるので『ワンス・アポン・ア・タイム・イン海雲台(※男女2人キャストの創作ミュージカル。観劇後に面白かったと言ってらっしゃいました。)を観ようかな…。

 

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〈mocaさん撮影〉2014年『悪い磁石』カーテンコールより。

 

------ この先『スリルミー』のネタバレを含みます ------

 

◆スリルミーの話聞かせてください

―韓国スリルミーって10年の中で何度も演出が変わってますよね。

大きくは4バージョンがあったんですよ。私が初めて観た2009年は2番目の演出ですね。大きなソファが置かれていたり、上手と下手に陪審員席が設置されてたりしました。2013年に栗山民也さんの演出があり、以降はそれがベースになってます。翌年に韓国人の好みに合うように修正が加えられ、それから毎年少しずつマイナーチェンジしてる感じですね。

―作品のどういうところに魅力を感じますか?

“私”役の幅が広いところ。あんなに粘着質な“私”から淡白な“私”まで、まっっったく違うものが生まれるなんて…参るよね。同じ作品、同じ構成でこんなに違うのかって。一人の俳優さんが“私”と“彼”の両方やってたりするし、組み合わせでも変わる。毎日観に行っても違うものが観れますからね。さすがにここまで180度違う役になっちゃうって他の作品ではないです。

―マチソワで変えてくる人もいるのが恐ろしいですよね…。特に印象に残ってるキャストって誰ですか?

まずはやっぱりピルソクさん。(※2009年,2015年,2017年に私役で出演)10周年のピルソク私は“彼”に膝枕を強要してたのめっちゃ面白かったですね。“彼”役のイ・ユルさんの方は煙草吸えないからすぐ消しちゃうのに、ピルソク私がスパスパ吸ってんの…。ピアニストのオ・ソンミンさんが「あのペアは自由すぎてピアノがリードできない」ってインタビューで言っておられたんですよね。ピルソク私が作品を引っ張るのを支えて、後ろからついていくような弾き方をされてたのが印象的でした。ピルソク私は最後の独白シーンの間の取り方も独特でしたね。

―あのペアは最初からピルソク私の方に優位性があるような関係でしたよね。

基本的に淡白で冷たい“私”でしたね。そういう意味でいうとシン・ソンミンさんも。(※2013年,2014年,2015年に私役で出演)ソンミン私は今まで観た中で一番冷淡な“私”。だけどその中に弱さが見えるところが良くて、99年では他のキャストのようなどんでん返し展開というよりは「こんなことはしたくなかったんだ」って悲しさが伝わってきましたあとはチョン・ウクジンさん。(※2014年,2016年,2017年に私役で出演)おどおどとしたキャラクターの中にも腹黒いところがあってすごく斬新でした。ウクジン私は、相手役によって演技を変えてくるんですよ。柔軟で器用な俳優さんだなと思いました。どの“私”も個性があって、みんな面白いです!

―スリルミーは2020年まで再演なしとのことで、寂しいですね。再演したら、また通いましょう!mocaさん、ありがとうございました!

 

ということでmocaさんにお話を伺いました!お写真もほんと素敵ですよね。いいなぁ、私もカテコ用に良いカメラと撮影センス欲しい…。mocaさんのフットワークの軽さとチャレンジ精神には驚かされます。ちゃんと語学力を磨いた先にはまだまだ深い世界が広がっているんだなーと、とても勉強になりました!

ちなみにカン・ピルソクさんは2月から『ドクトル・ジバゴ』(2月27日〜5月7日 シャルロッテシアター)に出演されるので気になった方は調べてみてくださいね!

 

ついでに私の2017年『スリルミー』感想はこちらです。