はじめてZINEをつくって、文学フリマに出た話
先日、東京と京都で「文学フリマ」に出店しました。
イチから自分で本をつくって手売りする経験は想像以上におもしろく、いつか人生を振り返った時にも「やっておいてよかったこと」の上位に挙げられそうです。
イベントで頒布したのは韓国留学に関するエッセイと、友人satokoさんと合同でつくった韓国ミュージカルZINE。今いちばん話したいことと、いちばん好きなことを詰め込んだ本をつくるわけですから、そりゃひたすら楽しいに決まってるでしょう。そんな「楽しい」のかたまりを誰かがお金を出して買ってくれるなんて、すごくない?
昔から同人誌をつくっている友だちは周りに何人かいたので、話はよく聞いていたのですが、実際に自分がやってみるまでこんなにおもしろいものだとは思っていませんでした。
ZINEをつくることになったきっかけ
たしか去年の5月頃、場所はソウル大学路のカフェかごはんやさんだったと思います。satokoさんから、以前個人で発行されたZINE『韓国創作ミュージカルガイド』の続編をつくることになり、どうせなら即売会に出店してはどうかと考えているというお話を聞きました。その流れで「いっしょに文学フリマに出ませんか?」と誘っていただいたのが最初でした。それまでにZINEをつくろうだなんて考えたこともなかったはずなのに、聞くやいなや「それだ!」と乗り気になった記憶があります。
というのも、せっかく韓国に住んでたくさんの貴重な経験をしたというのに、渡韓から3ヶ月後に一度ブログを書いたきりで、その後なんの報告もできていませんでした。忙しかったこともあるけれど、ごく個人的な話を不特定多数の方が読む可能性のあるXやブログに書くことができず、留学生コミュニティ内での身バレも恐れて慎重になっているうちに書くのが億劫になってしまったのです。
だけど帰国後なら、わざわざお金を出して本を買ってくださる方々に向けた文章でなら、それなりに自由に書けそうな気分になって、俄然やる気が出てきます。そこそこ長く生きてきているので、どんなに大切にしたい記憶や感情も、時間が経てば霞んでいくことはよくわかっています。なんらかの形にしておかなければ留学生活を締めくくれないような気がしていたところに、ナイスタイミングのお誘いでした。
帰国後の8月頃から、satokoさんとは毎週ミーティングの時間を設けてイベントに向けた報告と打ち合わせをしました。すでにZINEをつくった経験のあるsatokoさんにおんぶに抱っこ状態で準備を進め、さらに原稿づくりの背中を押してもらえるありがたさ。ひとりだったらそもそもつくっていなかったし、やり遂げられなかったはずです。
約束した火曜20時にGoogle Meetsが繋がるなり「今週なんも進んでないです!」「私もです!」となり、雑談だけして終わった回もありましたが、それはそれで楽しかったな。
そんなミーティングを重ねながら、印刷会社はどこにするか、どのプランで何部刷るか、入稿用データの作り方など、手取り足取り教えてもらい、相談していきます。前職で広告制作の仕事をしていましたが、扱っていたのはWEB媒体ばかりで、紙媒体の経験はないに等しいレベル。慣れない作業でしたが、そのぶん新しいことばかりで楽しい。実際に刷ってみて残念なところがあろうが、まぁ自分の作品なんだから気楽なものです。
韓国ミュージカルZINEを制作する
当初は個々のZINEだけをつくる予定が、「もし時間に余裕がありそうだったら、軽く合同誌もつくりましょうか」という話になり、あれこれとアイデアを出し合っているうちに、気づいたらぜんぜん軽くはないZINEのイメージができてしまいました。
インタビュー大好き芸人である私は、以前このブログで『韓国ミュージカルオタクに聞いてみた』というインタビュー企画をやったことがあり、それがとてもおもしろかったので、今回のZINEもインタビューと座談会をメインとすることに。
私はふだん大劇場を中心に観劇されている韓国ミュージカルオタク仲間3名に声をかけ、9月初旬にSkypeで座談会を実施。いつもソウルでやってるみたいに2時間半ほど楽しくお喋りして、録音を書き起こし、編集して原稿にしました。
そのほかには、劇場周りのお店や韓ミュ用語を紹介する企画も担当。satokoさんは小劇場をメインに観劇されている方のインタビューと、お役立ちアプリ&サイトの紹介ページをつくってくれました。
海を越え、言語の壁も越えて劇場に通う人たちのパワフルなエネルギーと、それを引き出す韓国ミュージカルのとてつもない魅力が伝わったらいいな。「韓ミュが気になるけど、観に行く勇気がない」という方の役にも立てたらいいな。そう願いながらつくりました。
合同誌のタイトル兼サークル名は『賢い大学路生活』に決定。こちらは天才のsatokoさんが考えてくれました。
「大学路(テハンノ)」とは、ソウルにある中小規模のミュージカル劇場が集まる街の名前です。ZINEでは大学路以外の大劇場ミュージカルも扱ってはいるけれど、やはり韓国ミュージカルオタクにとって「大学路」とは、名前を見るだけでも気分が上がる“拠り所”ですから。タイトルにはぴったりなんじゃないでしょうか。ブロードウェイやウェストエンドのようにミュージカル文化を象徴するエリアがあるというのは、実に素敵なことだと思います。
「文学フリマ」の熱気に圧倒される
合同誌を10月末に、エッセイを11月中旬に入稿したあとは、いよいよ12月1日のイベント出店に向けた準備を進めていきました。値札やPOP、見本誌用の帯など、当日必要なものを揃えたり、宣伝用のサークルアカウントを用意したり。
他のサークルの方々がどんなふうにアカウントを運用されているのかを参考にさせてもらいながら、目ぼしい本を探すのも楽しい。「#文学フリマ東京39」のタグにはとても多様なジャンルの出店者さんがお品書きを投稿されていて、ふだんは馴染みのない界隈のマニアックなZINEにもついつい興味を引かれてしまいます。
文学フリマ事務局は、文学フリマにおける〈文学〉の定義を「自分が〈文学〉と信じるもの」としています。開催22年の歴史のなかで徐々に小説以外のジャンルの出店が増え、今ではおよそ半分をノンフィクション・評論・詩歌が占めるのだそう。実際、旅行記やグルメレビュー、エッセイなど、手に取りやすいノンフィクションジャンルのブース付近は特に人が多かった印象があります。

最初の出店となった「文学フリマ東京39」の会場は東京ビッグサイト。年々増え続ける来場者数に対応にするため、今回初めてビッグサイトで開催されることになったようです。この日の出店数は2,263、出店者を含めた来場者数は約1.5万人にのぼったとのことで、広いホールはぎっしりとブースで埋まり、通路にはつねに人がひしめいている状態。想像を越える盛り上がりに圧倒されることになりました。
出店しておきながらなんですが、週末のUSJかドームコンサートでもなければ見られないような人波が〈文学〉を求めてビッグサイトに集まってきている光景を見て、「他人の書いたものに関心のある人がこんなにたくさんいるものなんだ〜」という身も蓋もない所感が脳裏に浮かびました。こんなふうに視覚的に〈文学〉への熱狂を感じられる場所なんて、他にはなかなか思いあたりません。本好きとしてはそれだけでもじゅうぶんに足を運ぶ価値があると思います。
オフラインで発信するということ
われわれ『賢い大学路生活』のブースにも、予想を超える人数の方々が来てくださいました。以前からXでフォローしてくださっていて、私たちのZINEを買うためにビッグサイトまで足を運んでくださった方も多くいらっしゃって、言葉では言い尽くせないほどありがたかったです。なかにはXのハッシュタグや見本誌コーナーを見て気になったからと訪れてくださる方もいて、イベントならではの出会いにも嬉しくなりました。
東京まで出ていっただけあって、なかなか会う機会のなかった方々と久しぶりに会えたし、これまで会うチャンスのなかった方々と初めて直接お会いする機会にもなりました。もともと知ってくださっていたかどうかに関わらず、私たちのブースに来てくださる方は韓国ミュージカル、あるいは韓国文化に関心がある方々ばかりなので、それをとっかかりにお話できたのもよかった気がします。
私はSNS誕生よりずっと前の、いにしえのインターネットを徘徊していた中高生時代から、オンラインで知り合った方と会うことに抵抗がないどころか、チャンスさえあれば会いたがるタイプの人間でした。基本的に本名をハンドルネームにしているのは、リアルで会った時に本名で呼んでもらいたいからだったりするし、今でも交友関係の多くがオンラインでの趣味のつながりをきっかけに知り合った方々です。そんな私からするとこれはとても嬉しい機会で、本当は一人ひとりを捕まえてがっつりお茶しに行きたいくらいでした。

その後、年が明けて1月に出店した「文学フリマ京都」は東京とはまた違う雰囲気でした。来場者数も東京の3分の1ほどで、入場料もかからず、会場がアクセスしやすい観光エリアに位置することもあり、ふらりと立ち寄ってじっくりと本を探し回る方が多いような印象。客層もより幅広いように感じます。友人や日頃お世話になっている方々が遊びに来てくれたり、私が出店していることを知らずに来場した友人や元同僚にばったり会うというのは、地元開催ならではでした。
私は今も日常的に4つのXアカウントを行き来する、ちょっと前の用語で言う「ツイ廃」なのですが、ここ数年ほどは以前よりもSNSで発信することに慎重になってしまいました。仕様変更があったことや、あるアカウントで悪質な嫌がらせを受けたこと、オフラインでじゅうぶんに趣味の話ができていることなど、複合的な要因があるのですが、きっと瞬発的な発信に疲れてしまったところが大きいのではないかと、今回「文学フリマ」に参加して思うようになりました。
関心の程度に関わらず、不特定多数の人に瞬時に届く簡潔なことばが集まる場所がSNSならば、じっくりと長い時間をかけてつくった紙の本を強く関心を持ってくださる方に直接手渡すという今回の経験は、それとは真逆のように感じられました。たくさんの文章を書き、構成やデザインを決めて印刷し、ブースを飾って販売するのは、ひたすらにめんどうくさいです。ゆりかもめに乗って、人波をかきわけてお目当てのブースを探し、本を買い求めるのも、どう考えてもめんどうくさいです。だけどこのめんどうくさくて時間のかかるコミュニケーションからしか得られない喜びがあって、それを大切にしたいと思う人たちがたくさんいるから、出版不況と言われるなかでも「文学フリマ」が来場者数を伸ばし続けているのかもしれません。
オフラインで発信するおもしろさを知ったところで、私がSNSなしに生きられないのには変わりないのですが、SNSはあくまでもその先にある「めんどうくさいコミュニケーション」のためのツールとしてうまく付き合っていけたらいいなと思ったのでした。
私がZINEをつくったことで、身近に「私もやってみたい」と言ってくれた方がいて、今はそれをきっかけに新しいテーマでのZINEづくりをぼんやりと考えているところです。はっきりと決まったことは何もありませんが、きっといつかまた文学フリマには出ることになるはず。
今回頒布したZINEは現在BOOTHにて通販をおこなっておりますので、関心を持ってくださった方は以下のページを見ていただければ幸いです!
▼韓国留学エッセイはこちら
エッセイは当ブログに投稿した『7年勤めた会社を辞めて韓国に来た話』に近い内容を出発点としているので、サンプルとしてこちらをお読みいただいてもよいかもしれません。
▼韓国ミュージカルZINEはこちら
またsatokoさん作の『韓国創作ミュージカルガイド1&2』は、satokoさんのショップからお買い求めいただけます!
『マリー・キュリー』や『メイビー、ハッピーエンディング』といった日本でも上演された作品を含む、韓国オリジナルミュージカルの解説本です。中小劇場作品を中心に観劇してこられたsatokoさんならではの細かい見どころ解説がすばらしい…。あらすじ、制作の背景、制作陣のこと、作品を深く理解するための背景知識など、とにかく情報量の多さがすごいんです。扱われている作品ジャンルも幅広く、韓国ミュージカルがいかに豊かな広がりを見せているかを感じられると思います。
私が韓国創作ミュージカルのなかでもっとも愛する『レッドブック』のハン・ジョンソク脚本家のインタビューも掲載されていて、とても貴重な内容…!「気にはなるけど、韓国語がわからないから創作ミュージカルには手が出しにくい」という話もよく聞くのですが、そんな方はぜひこちらを片手に大学路の世界に飛び込んでみてください!