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BTSと韓国ミュージカルが好きです。

【観劇感想】2018年 韓国版『フランケンシュタイン』

フランケン三演!観てきました!

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前回の公演から2年3ヶ月ぶり。ブルースクエアでフランケンってなんか不思議でまだ慣れないです。このフォトスポットに使われている生命創造装置、実際に再演で使われてたものだそうですね!この中にウヒョク怪物が入ってたのか…。ちょいちょいウヒョク怪物を思い出しくて寂しくなってしまうのは許して。

 

◆三演で変わったこと

基本的には初演の形に戻った今回の公演。まず大きな変更は再演でカットされたジュリアのナンバー《独り言》とビクター&ジュリアの《あなたがいなくては》が復活したこと。そしてそれにともない、各場面でテンポが早められました。ナンバーが少し短縮されたり、セリフ部分の「間」が埋められたり。

個人的には「間」がなくなった部分があることが最も残念なポイントだったのですが、ワン・ヨンボム演出の「今後長く色んな場所で演じられるように規格化されたものを作りたかった」という言葉を思い出すと納得。中華圏ツアーも計画されているようなので、それも意識しているのかもしれません。やはり全体を見ると、再演版の方が好きだったなと思いますが、回数を重ねるごとに三演版ならではの良さがわかってきました。「完成版」と言われているので、今後はこの形でいくのでしょうか。

しかし、確か開演前の記事で「新曲や新キャラクターがある」って言われてた気がするんですけど、何のことだったの…?新曲は初演の曲が復活という意味だったとして、新キャラクターいた??

 

ジュリアのナンバーが戻ってきたことについては、作品における女性の扱いを批判されきたことと関係があるのかもしれないと思いました。「ワン・ヨンボム作品の女性キャラクターは聖女か娼婦ばかりで、女性の内面が表現されない」という指摘はしばしば見かけます。(余談ですが、『ベンハー』のエスターはこの批判を意識してキャラクター造形されたのかも…と思いました)MeToo運動が吹き荒れた今年、ミュージカルにおける女性蔑視表現への批判も大きくなり、多くの作品で見直しがおこなわれる中での流れだったのかも。

個人的には、もちろん女性の内面を描いた作品が増えることは願っていますが、『フランケンシュタイン』に関してはビクターの物語なので、ビクター&アンリ/怪物に焦点を絞った再演の形がより良かったと思います。ただでさえ詰め込み脚本なので、ジュリアの想いについては《平和の時代》で歌われる部分だけで十分だろうと。(※結婚式の部分については前にも書いたので割愛)まぁしかし、せっかく良いメロディと歌える役者が用意されているので一曲でも多く詰め込んでおこう、という気持ちはわからんでもないな…とシハジュリアが《独り言》歌ってるところを聴いて思いました。

女性に関する部分での嬉しい修正は、ビクターがジュリアを遠ざけるために言う「ドイツの女性は見かけより太っているから脱がせて驚くな」と言う台詞。これが「ドイツに行ったら香水を買ってこい。ここは悪臭がするから。」という流れに変更されました。これは本当に良かった。

それからカトリーヌが凌辱されたことを匂わせるシーンも多少の変更があり、より曖昧になった印象です。(アンサンブルがズボンを直したり、ニヤニヤ笑うといった動作がなくなった)私自身はフィクションの中の性暴力は批判的な視点さえあれば良いと思っているのですが、あのシーンに気分を害する人も多いと思いますし、正解ですよね。

同時に観た作品内でも女性が不快になるシーンの演出変更があり、時代に合わせたアップデートをしてくれるのは安心だなと思いました。

 

わりと大きな事件だったのが《傷》の位置。再演では【その日に私が→絶望→後悔→傷→北極】という流れだったのが、なんと【その日に私が→傷→絶望→後悔→北極】に。

初回のミンミンペアでは変更にびっくりしすぎて、《絶望》の前に《傷》が来ることが全然受け入れられなかったのですが、2公演目ではこの流れにとても納得がいきました。《その日に私が》ラストで舞台中央に座り込んで子供のように泣くビクターと、暗転して聞こえてくる少年(または子ビクター)の泣き声がつながるような流れになったんですね。よりこの少年とビクターの関係が明確になった気がします。

変更した一番の理由は北極への転換問題じゃないかと思います。再演の《傷》→北極の流れが好きだったんですが、時間がかかりすぎるんだろうな。背中を向けたまま北極に場面転換し、客席後ろから登ってくるビクターを穏やかに見つめる怪物。これが無くなったのは寂しいのですが、代わりに三演では暗転する中で怪物がハミングする演出が入ったのがとても良いです。(私が観た3公演ではミンソンさん&カイさんはハミング、ウンテさんは泣き声でした)

先に《傷》が来たことにより、《絶望》の歌詞にも多少の調整が。ウンテ怪物に限って言えば、この場面の演技も変わった気がします。前はもう少し憎しみを強く出してた印象。ウンテ怪物を見て、《傷》からの生命創造装置を壊す流れもしっくり来ました。

 

それから《私はなぜ》の歌詞がまた変わりました。鏡の中の呪われた自分を開放するというような内容になって、バリーンと鏡を割る音まで追加。このままアンリを見捨てたら、呪われた運命を受け入れることになってしまうから、それを自ら抜け出そう…という流れになったわけですね。相変わらずこのあたりのビクターにはまったく共感できないものの、初演版や再演版よりは納得がいきます。

あと《孤独な少年の物語》の歌詞も変更。子ビクターが最初に子ジュリアの前で本を読むところがなくなり、次のやりとりが追加。

ビクター転ぶ
「ビクターは痛くても泣かないのね」
「泣いちゃだめだ。みんなに見くびられる。」

いや君めっちゃ泣く子やん…と言いたくなるところですが、両親の死以降涙は封印してたということなんでしょう。

他に細かいところで言えば
・オープニング映像が一部変更
・酒場の「殺人でもしないことには…」あたりのアンサンブル含めた演技
・結婚式復活に伴い「私たちの最終目標は死なない軍人を作ること」のセリフも復活
・生命創造装置のチューブ的ななんかがなくなった
・《逃亡者》が若干短くなる
・ジャック登場シーン、みんなでポーズ☆
・《その日に私が》でビクターがエレンを抱きしめる演出追加
・北極でBGM追加
・北極で雪降らない(映像になった)←これ結構残念…

今出てくるのはこのくらいですかね。


◆6月23日 昼公演

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■ビクター/ジャック…ミン・ウヒョク
■アンリ/怪物…パク・ミンソン
■ジュリア/カトリーヌ…アン・シハ
■エレン/エヴァ…パク・ヘナ
■ルンゲ/イゴールイ・ジョンス


新キャストペア!ミンミンペアです。(関西組の間では餃子ペアとも)ミンソンアンリのチョッコンでもありました。とにかく熱い。「今日マッコンですか?」って言いたくなるほどのエネルギーを注いでいた二人。ただでさえテンポが早くなったうえ、二人の勢いがすごいのでちょっと慌ただしく感じてしまいました。二人とももう少し緩急が欲しいな…という感想。しかし、この吹っ飛ばされそうなほどの迸るエネルギーこそがフランケンだよな!と、またこの作品を観られた喜びを噛み締めた公演でした…。

ミンビクターはとにかくかっこいい。やはり人の良さが滲み出ており、普段がカリスマ性のある美丈夫なので、《その日に私が》以降の崩れていく様子に同情心を掻き立てられる。ジャックでかい!美しい…。

ミンビクターは《偉大なる〜》が一番良かったです。

●偉大なる生命創造の歴史が始めるーミン・ウヒョク(2018年プレスコールより)

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ミンアンリはものすごい熱血漢。序盤、敵兵を撃った将校にも真っ向から怒りを表明してました。いかにも人に慕われそうな明るさがあって、ミンビクターとの酒場では豪快な男の友情を見せてくれました。しかしミンソンさんは断然二幕が良かった!《私は怪物》のアプローチは再演のウヒョク怪物に近かったですね。仰向けから歌い出すところがとても悲壮感があって、《そこには》の無邪気さとのギャップに泣かされた…。

●私は怪物ーパク・ミンソン(2018年プレスコールより)

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《そこには》で怪物が歌い出すところ、「そこには人間がいない…?そこには欲望もない…?誰も傷つけない…?」と疑問形になっていたところがめっちゃ泣けた…。全キャストともにカトリーヌと二人で明るく北極を夢見るような演技に変わっていて、恋心を感じさせるようなペアは今回いなかったですね。カトリーヌが“少女”になったような印象。

ミンミンペアも良かったのですが、この回の終演後にロビーで友達に会って出た第一声は「パク・ヘナやばい」でした。パク・ヘナ様のエレン/エヴァやばすぎるよ!めちゃくちゃ期待してたけどそれ以上に素晴らしかった!エレンは芝居がとても繊細で、ビクターへの愛情溢れる声はずっと聴いていたい心地よさ…。そしてなんといってもエヴァよ!《男の世界》ってストーリーに関係ない曲だから自分の中で休憩ポイントだったんですが(すいません…)ヘナエヴァ様のおかげでハイライトの一つになってしまった。一時も目が離せないし、歌声も表情もめちゃくちゃツボです。投げキッスされた時(※わたしにされたわけじゃない)ぶっ倒れるかと思った。もう、結婚して…。

●男の世界ーパク・ヘナ(2018年プレスコールより)

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カーテンコールでは、ミンソンさんの泣き出しそうなのを堪えた表情や、ウヒョクさんの労いの表情から、ミンソンさんがどれだけ大きなプレッシャーを抱えて稽古に励んできたのかが伺えて、貰い泣きしてしまいました。自信の無さから一度は断ったくらいだったんですもんね…。公演中は少し拍手が少なかった気がしたのですが、カテコはスタンディングオベーションで安堵されたんだと思います。肩の力を抜いて、さらに進化させていってほしい!


◆7月7日 昼公演

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■ビクター/ジャック…チョン・ドンソク
■アンリ/怪物…パク・ウンテ
■ジュリア/カトリーヌ…アン・シハ
■エレン/エヴァ…ソ・ジヨン
■ルンゲ/イゴールイ・ジョンス

よくしドンウン!!!ドンウンですよ…!私のフランケンの解釈はドンウンが基本になってるということをはっきりと思い出しました。本当に戻ってきてくれてありがとう…。

ドンビクは研究以外のことはまるでできない子どもという感じが強く出ていて、ラストシーンで天に向かって狂ったように叫ぶところがとても良かった。そしてパワーアップして戻ってきたドンジャック!また会えて嬉しい!「僕が来たよぉ〜〜ベイビーたちぃ♡はい拍手拍手ぅ♡」ってもうノリノリですよね…ほんと、ワイヤーでもついてんじゃないかってくらい対空時間長いしな…。「僕もびっくりしたよぉん♡」のあとの頬をぷくっ→客席失笑→「僕もやりたくないのぉん」って中の人の心の声漏れてますやん。前回の公演時「あれ(ジャック)は僕じゃない」とか言ってたそうですが、本気で楽しんでますよねドンソクさん。大好きです。なんかもう捌けたあと客席ザワザワしてたもんな。キレたあと自分で自分に「怒っちゃだめ!ブスに見えちゃう…」言うのも良いよね…。きゅるんきゅるんで表情豊かなのに、怪物に焼きごてを当てる時や、カトリーヌが懇願している時にはまるで何も感じてないような無表情なのがとても残忍。

ドンジャックのプレスコールを映像に残してくれてありがとうやで…。

●お前は怪物だーチョン・ドンソク(2018年プレスコールより)

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ウンテアンリ、品行方正な優等生アンリだったのが少しキャラが変わっていた…!酒場、みんなの分を奢るっていったあとの「やったった」感がめっちゃ可愛い。下戸なアンリに瓶ごと呑ませるドンビク…という前回のドンニュペアと同じことやっててウヒョクアンリが恋しくなるなど…。アンリの腰に巻き付くドンビクも健在。このペアの母子感が大好きです。絶望的に踊れないドンビク(※プレビューよりマシになったらしい)も面白すぎた。少し不穏な空気もあった酒場シーンが、三演ではカラっと明るい場面になってて楽しかったです。(だけど私は再演にあったあの“間”が好きだったよ…)

《私は怪物》のアプローチもかなり変わって、この回では「昨日の夜…」の前から頭を抱え、言葉を発するのと同時に少しずつ記憶を取り戻し、最後は完全にアンリの表情に戻っていました。北極では「ビクター」と3回呟き、ドンビクの頬に優しく触れながら「これが私の復讐だ」で首を落とすんですが、最後にドンビクに揺り起こされて後ろに倒れる時にもう一度目を開けてビクターに向かって手を伸ばしながら倒れるのがたまらなく良かったです…。私が好きな“愛しているから復讐する”怪物を全身で表現するウンテ怪物、やっぱり特別です。ビクターが“アンリ”を愛してることを知っているからこそできる最大の復讐。その思いを全部受け取ったかのようなドンビクの慟哭に大きなカタルシスを感じます。このビクターとアンリだったからフランケンをこんなに好きになったんだよな…としみじみ思いました。

●ただ一つの未来ーチョン・ドンソク、パク・ウンテ(2018年プレスコールより)

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◆7月8日 昼公演

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■ビクター/ジャック…リュ・ジョンハン
■アンリ/怪物…KAI
■ジュリア/カトリーヌ…アン・シハ
■エレン/エヴァ…ソ・ジヨン
■ルンゲ/イゴール…キム・テジョン

ようやくお会いできた皇帝ビクター!!皇帝しかやってない演技や言い回しが結構あって、すごく面白かった…。将校の敬礼を直すところ、高慢でめちゃくちゃ嫌な感じ!ルンゲに「使い道があるな」のところも「感動的だな」でしたね。カリスマ性があるのに「ただの弱い人間」もしっかり見せてくれるのがさすが…と思います。《偉大なる〜》は、この曲自体そもそも皇帝が歌うことを想定して作ってるよね…と思わせる、まるで雷みたいな歌声。

カイさんは本当に新しいアンリ/怪物でした。まずメガネってだけであかんやつですよね。いかにもインテリでものすごく良い…。真面目すぎてはっちゃけるとかできないんでしょう、酒場では意を決したように呑み干し、そこから急に表情がほぐれていったのがかわいかったです。素面だったらテーブルの上で踊るとか絶対できないからカイアンリは!!「よっしゃここはビクターのためにやるしかない」という健気な感じが良い…。

●君の夢の中でーKAI(2018年プレスコールより)

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カイさんは怪物がまた凄かった。ばらばらに意志を持っているかのようにコントロールの効かない四肢の動きに、見開いた目とヨダレを垂れ続ける口…本能的に「恐ろしい」と思ってしまう怪物だった。最初に「人ならざるもの」をしっかり表現することでこんなに説得力が増すんだな…。好きだったのは《逃亡者》で「呪いを首にかけ〜」のあと、鎖が首にかかるジェスチャーをして、それをきっかけに一気に回想に切り替わるところ。それから闘技場での最初の戦い、戦っているという意識もないまま相手を追い込んでいくところ。《そこには》の言葉がままならない歌い方といい、無垢な怪物の表現が見事でした。

《傷》で少年に「あんにょん」していたのもとても好き。怪物を恐れなかったカトリーヌと少年の繋がりがはっきりと見えるような表現でした。《そこには》のカトリーヌが少女のようだったので、余計に「君も大人になれば…」という言葉にカトリーヌを連想します。ふと子ビクターの「泣いたらみんな(人々)に見くびられる」というセリフを思い出して、少年(ビクター)が怪物を恐れなかったのは、カトリーヌと同じように「人間が怖い」からなんだろうという気がしました。怪物はカトリーヌの裏切りを通じて不幸な境遇がビクターを“大人”にしてしまったことを悟ったのだろうと感じたし、憎しみの中にビクターへの同情心を感じさせてくれるからこそ、『フランケンシュタイン』という作品を好きなのだ…と改めて思いました。

 

一公演の疲労度と満足度が大きいフランケン。2018年三演版の観劇はまだまだ続きます。今期まだ観ていないチサンアンリと、ジヘジュリアも楽しみ!おそらく次はソウル公演閉幕後にまとめて書きます。地方公演は行こうか迷っているのですが、生オケのあるソウルで締めたい気も…悩む…。

 

 
今年のグッズかわいいんだよな…。ショットグラスに《君の夢の中で》の歌詞プリントしただけの「のえくむそグラス(君の夢の中グラス)」とかやっつけグッズもありますけど。生命創造ケーブルはiPhone用とAndroid用あり。ちなみに7/17現在、舞台写真入の二次プログラムはまだ発売されてません。次に行く時には出てるかな。