Things I Didn't Know

BTSと韓国ミュージカルが好きです。

【観劇レポ】韓国版『スリルミー 』(쓰릴 미)10周年記念公演

ミュージカル『スリル・ミー』(쓰릴 미)

韓国10周年記念公演 2017年2月14日~5月28日 ぺガムアートホール 

2007年からほぼ毎年公演されてきた韓国スリルミー。毎年気になってはいたもののタイミングを逃していて(昨年はフランケンに忙しかったんで…)私は今回が初の韓国版デビュー。日本版は観ていましたが、その時は掘り下げるまでに至らなかったので、今回こそはしっかり浸かってみようという気持ちで予習に挑みました。  

image

 

◆あらすじと予習のこと 

元々はオフ・ブロードウェイ作品。登場人物はリチャード・ローブとネイサン・レオポルドという実在の人物が2人。演奏はピアノのみ。と、たった3人で進行されるミュージカルです。恋人関係にあった2人の秀才が大学生の時に起こした殺人事件がもとになった話で、舞台は54歳のネイサンが仮釈放を前にして当時を振り返るという形で進んでいきます。ネイサンの回想は、1年の間ネイサンの前から姿を消していたリチャードが再び現れるところからスタート。ニーチェの超人思想に傾倒するリチャードは、ネイサンが自分に惚れ込んでいるの利用して、恋人として彼を満足させるのと引き換えに犯罪の共犯者となる契約を交わす…というのが序盤のストーリー。 

このオフ・ブロードウェイ版脚本から固有名詞を廃して役名を<私><彼>とし、観客がより想像力を働かせられる作品へと作り変えたのが韓国版。で、日本版もこれを踏襲しています。今回、予習として韓国版脚本を訳してみて、日本版は全体的に直接的な表現を避け、詩的な歌詞をつくりあげているんだなと気づきました。語数がより限定されるのでそうせざるを得ないところもあるんだろうと思います。どうしても情報量はかなり落ちるものの、日本版の表現の方が好きだなと思うところも数か所。 

訳をつくる時にすごく困ったのが「チャギヤ」という呼び方。韓国での親しい間柄で呼び合う言葉で、恋人同士に限らず仲の良い友達同士でも使うそう。英語版では「Babe」となっていて、「ハニー」に近いのかなぁと思うのですが、ちょっとニュアンスが違うので訳し方に困った。固有名詞を廃したにも関わらず、ここだけは日本版で「レイ」という愛称が使われており、訳者の方も困ったんだろうなと…。今回調べて知ったんですが、この「チャギヤ」というのは直訳すれば「自分よ」みたいな意味で、親しい人に対して「自分」と呼びかけるってのがなんかいいなと思います。(劇中では、<彼>が<私>に対して使っていたこの甘い呼び方を、終盤のとあるシーンで<私>が<彼>に対して使うところが好きです)とにかく、フルで対訳をつくれたので台詞を頭に入れて観劇に臨めてよかったです。特に動画に字幕をつけていく作業は、すごく良いトレーニングになります。スクリプトがあっても、語尾など細かいところがキャストによって異なるので聞き取りの練習にとても良い。 

あと今回、以前から「韓国ミュージカル観てみたい」って言ってたリアル友人がついに渡韓に付き合ってくれて、対訳と字幕動画が彼女の韓国ミュージカル&スリルミーデビューの助けになったのも嬉しかった。めっちゃはまってくれました。彼女はドMなのでドンファ彼が良かったようです。おたくホイホイだよねドンファさんは。 言語のわからない舞台を観るのは、それなりに情熱がないと踏み込めないことではありますが、大体の流れさえ掴んでおけば充分に楽しめるってこと、一度良い作品・良い俳優さんを観ればわかると思うので、ソウル観劇は今後も各方面にゴリ推ししてきたい所存。もちろん言葉がわかった方がずっと楽しいですが。私はまだまだ予習なしには聞き取りや理解が難しいので、勉強あるのみです。 

 

◆キャストのこと 

10周年キャストはオリジナルキャストを含む歴代の豪華メンバーが集結。韓国ミュージカルビギナーで小劇場に明るくない私にも、このメンツが揃うことがどれだけ凄いことかはわかるぞ…とちょっと震えるくらい。今第一線で活躍されている面々が名を連ねておりました。今回の11名に限らず、歴代キャストは錚々たるメンバーで、会場の記念ボードに並んだ写真を眺めているとスリルミーという作品が若手俳優の登竜門となっているのを実感します。劇場は例年よりも大きなハコだったにも関わらず、即日完売する公演も多く、人気ペアのチケッティングには結構苦労しました。 

公演期間約3ヶ月の中で、特別ペアを含む全7ペアが公演。従来、韓国公演では複数のキャストがシャッフルで組んでいますが、今回に限ってはペア固定で公演されました。キャスト11名の中で、チョン・サンユンさんとチョン・ドンファさんは<私>と<彼>の両役で登板。2人とも片方しか観れませんでしたが、観比べたかったな。今回は違いますが、キム・ジェボムさんも過去に両役を演じておられます。みんなすごい。 

誰を選んでもみんな上手いのはわかってるし、はじめは日程が合うペアを観れたらいいかなくらいのノリでした。そしてまったく予想してなかった俳優さんに落ちて帰ってきました。今回に限らず、何にも考えずに取った回のキャストにどぼんしてしまうことは韓ミュ沼ではよくあります。至る所に落とし穴があって本当に怖いです。なぜこんなにもたくさん魅力的な俳優さんがいらっしゃるのか。歌が上手くて演技も上手いヒューマンはもれなく大好きなので、取捨選択をしなくてはいけないのが辛いです。でも私はやっぱり作品優先で、本当の意味で俳優さんのファンにはなれない感じがしてるので、ぬるく推しながら沼全体を楽しんでいこうと思っております。 

 

◆作品のこと 

 韓国ミュージカルの回転ドア観客(※リピーター)を生み出すきっかけになったと言われるこの作品。題材がサスペンスなので、もちろん初見の驚きというものはあるものの、やはり2回目以降の方がより楽しめる作品なのではないかと思います。脚本自体に仕掛けられたものに気づいて見返す面白さ、というのもありますが、“キャスト違い”をこれでもかというほど楽しめる作品だと思います。韓国スリルミーほど俳優による自由度が高い作品には、私は今のところ出会ったことがありません。台詞の言い方もタイミングも仕草も動線も、キャストや回によってまったく異なります。 

劇団四季の「アドリブ禁止」というルール(例外もありますが)に代表されるように、日本のミュージカル界には基本的に“公演による表現のブレ”は良くないものとする考えが根づいているように感じます。しかし韓国、特に小劇場のミュージカルには、むしろその“ブレ”を売りにしているものが多いです。これには人口の少ない韓国でミュージカルの興行がリピーターに支えられている(※日本も勿論そうですが、よりその割合が高いと思われます)という背景があり、また演出家と俳優の関係がより対等に近いという状況も関係しているのではないかと思います。それと、私がここ数年韓国の文化に親しんできて強く感じるのは、韓国の人たちの“変化を求める国民性”。とにかく新しいもの好きで、創る側も「変わらなければ見放される」という脅迫観念に駆られているのでは、と思ってしまうほど。俳優の層が厚いこともあり、キャストは再演のたびにガラっと変わり、演出も変わることがしばしば。スリルミーで言うと、この10年間で4回演出家が変わっています。他の演出を観ていないので比較はできませんが、「黒歴史」と言われる年もある中、今の演出は2014年から変わっていないようなのでかなり評判が良かったのではないでしょうか。それでも毎年少しずつマイナーチェンジはしていたようですね。 

余談ですが、韓国の新しいもの好きな国民性についても触れられているコラムが面白かったので、備忘録としてここに貼っておきます。 

 

"大げさに言えば韓国には日本のような「老舗」はない。(略)変わってこそ、特に大きくなってこそ社会から認められるからだ。"

前述したとおり、保守的で変化を好まない日本と、リスクを恐れず大胆に変化する韓国ってのは文化面でも感じる瞬間は多いです。こういう風土があるからミュージカルの分野でも若い作り手が育ちやすいのではないかと。単に日本に比べてミュージカルの歴史が浅く、観客層が極端に若いというのもあると思いますが。(※インターパークの統計データによると2016年にミュージカルのチケットを購入した人の8割以上が20〜30代)アイドル文化にしても、例えばSMAPのように、そこに居続けることが評価される長寿アイドルってのは、韓国では生まれないんじゃないかって気がしますね。それぞれに良いところと悪いところがありますが、ミュージカルの分野においては韓国の作るものが私の趣向に合ってるみたいです。こうやって、色んな国の文化を気軽に楽しめる時代に生まれたのは本当に幸せだなーと思います。選択肢は多い方が良いに決まってるしね。 

話が逸れましたが、私は劇場に常に新鮮な驚きを求めているし、決まった脚本に俳優がどう色をつけるかを楽しむタイプです。安定した歌唱力があって、多彩な演技の引き出しをもつ10周年キャストの方々は、想像を越えるパワーでその期待に応えてくれました。“公演による表現のブレ”によってクオリティが損なわれるのは良くないことですが、韓国スリルミーにそれがないのは、俳優さん一人ひとりが高い演出力を持っているからだと思います。解釈や表現が大きく違っても、それぞれにしっかりとした芯があるからキャラクターに説得力があり、どの公演も本当に順番がつけられないくらい面白かったです。頭の中で一度は完成したジグソーパズルを都度バラバラにされる感じ。最後にはまたちゃんとすべてのピースが嵌まるのだけど、前回とはまったく違う絵柄ができあがるみたいな。なんか、自由なんだな舞台って。ていう、当たり前のことをしみじみ思いましたね。 

2014年に初出演した時のチョン・ウクジンさんのインタビューを最近発掘して読みまして。ウクジンさんの<私>は笑顔が多く素朴で独特だと言われてるのですが、この記事の中で『稽古の時に演出家に「他の俳優をなぞっている」と言われ、悩んだ結果自分の中に見出した<私>がこれだった』という話をしてられました。キャスティングする側もきっとこれまでに観たことのないスリルミーを作るために新たに俳優を選んでいるんだろうな、と思わせるエピソードでとても好きです。 

それから、ペア組みの妙もあります。<私>役の方々が表現したいものに対して、ベストな<彼>が組まれているように感じました。それぞれのペアがどういうやり方を取っているか私は知りませんが、チョン・ウクジン×チョン・ドンファペアについては『毎公演後に2人で20~30分打合せをして演技を変えていった』と話していたそうなので、演技プランについてはほとんど俳優さんご自身で作り上げているものと想像できます。固定ペアであるにも関わらず、がんがん演技を変えてくる人たちばかりなので、次にどう来るかがわからない緊張感の中で観ることができるし、きっと俳優さんご自身にとってもそういう演目なんじゃないかと。《スリルミー》という作品タイトルにふさわしい舞台だと思いました。 

何よりも、多くの可能性を生み出す脚本そのもの力がすごいんだろうと感じます。私は大抵の場合、好きな作品は脚本そのものを好きになることが多いのですが、この作品はそうではありません。許し難い実在の事件を扱ったものですし、納得のいかないところも多く、社会的なメッセージがあるわけでもない。到底共感できる物語ではないのに、そこに俳優が息を吹き込むことによって生きたネイサンとリチャード像が浮かび上がるのが面白いところです。性愛だけではなく、学力や容姿や家庭環境などさまざまな優劣が複雑に絡み合った<私>と<彼>の関係性は多様の解釈を生み出すものだし、俳優に委ねることを前提にした“脚本の隙”がこの舞台を面白くしているんだろうと思います。 韓国創作ミュージカルは、まださほど数を観れていないのですが、このようにわざと脚本の隙による“ブレ”を売りにした作品はやはり多い気がします。そういった作品が浸透した背景には、間違いなくスリルミーがあるのでしょう。この10年で大きく発展したといわれる韓国の小劇場文化を牽引してきた作品なんだろうと思います。その記念公演に立ち会えて光栄でした。 

そして、千秋楽を目前にして、韓国スリルミーが2020年まで再演されないことが発表されました。私もどうせ毎年やるから来年また観れるわーと思ってたところあったので結構残念なんですけど、毎年追いかけてきたスルドクの方々のショックは如何ほどか…。今年の公演に出た方々はもう出演しない方がほとんどでしょうし、次はきっとまた大きく変わるのでしょうね。 映像は難しくとも、せめてライブ音源を出して欲しかったなぁ。10周年記念OSTはスタジオ録音なので迫力に欠けて、生を観たあとでは物足りなく感じます。キャストの皆さん美しい歌声で綺麗に歌っててこれはこれで良いんですけどね。 

 

ということでここからは公演の感想に移ります。観劇時のツイートをもとに軽くまとめました。特にあらすじも特に書いておらず、観たことのある方にしかわからないような感想になってますのでご注意ください。 

 

◆3月12日 昼公演  <私> チェ・ジェウン <彼> キム・ムヨル

image 

2012年日本公演で来日もされた韓国版オリジナルキャストのお2人で、”伝説”と呼ばれるペアの復活。特にムヨルさんは「もう出ない」と宣言されてたようなので古くからのファンの方々が歓喜しておられました。 <私>も<彼>も自分の中のイメージを完全ひっくり返される感じ。ジェウン私はとにかく激しく、愛情も怒りも真っ直ぐにムヨル彼にぶつけていて、ムヨル彼も「ネイサンには敵わない」と思ってるのを、そんなに隠してない。たとえば<私>が投げた鞄を素直に取りに行ったり、「契約書を破るところ見たいか?」のところもすぐに引き下がったり。とにかく<私>がものすごく強い。しかし、冗談を言うようなところでは2人だけの世界で笑い合ってたりと、幼なじみで親友だというのがしっかり出ていました。すごい勢いで衝突してるのに、絆を感じる関係…。そして《炎》がだいぶヤバいです。むしろ<私>の方が炎に興奮している。濃すぎて直視するのがためらわれるシーンでした。 

ジェウン私は、まったく<彼>をコントロールしようとしたようには感じられませんでした。伏線として用意されているのであろう部分に特に意味を持たせておらず、ストレートに<彼>と対峙しようとする誠実さがありました。結局<彼>を止めるためにああいう手を使わざるをえなかったことに対してとても哀しそうで、護送車のシーンは激しく疲弊し、<彼>の顔を見れずにいるのが切なかったです。 すごく好きなのが、ジェウン私の現在と過去の切替え方。声のトーンなど、特に大きく演じ分けをしているわけではなく、現在の<私>の頭の中に<彼>の幻影が現れるような形で時間軸が混じり合うのがはっきり見える。今私たちが観てるのは、ネイサンの記憶なのだというのがよくわかる。過去に戻るところでも、まだしばらくは記憶の中の<彼>が見えているようで、死ぬほど過去を恋しく思ってるのが伝わってきてつらい。 

そしてそんな賢くて確固たる芯を持つジェウン私を、他に何も見えないくらい惹き付けるだけの魅力を持ってるのがムヨル彼。自由で純粋で弱くて、とにかく立ち姿も声も素敵。そりゃこの人に笑ってもらうためなら何でもしちゃう…ていう感じ。相手を懐柔しようとする時の声がおそろしく甘い。スマートで激モテオーラ全開なのに、たまにすごく子供じみた言い方をするし、愛情に飢えた人というのがわかるので許してしまう。 ラストシーン、記憶の中で変わらずさわやかで甘いムヨル彼の姿で、ジェウン私の喪失感マックス。色んなものを削ぎ落とした真っ直ぐで濃厚な愛のお話でした。 

【動画】My Glasses/Just Lay Low チェ・ジェウン、キム・ムヨル(2017年プレスコールより) 

【動画】スリルミーTV 2017 - チェ・ジェウン、キム・ムヨル編

 

◆5月14日 昼公演  <私>キム・ジェボム <彼> チョン・サンユン 

image

ジェボムさんは以前に《ママ、ドント・クライ》で妖艶なドラキュラ伯爵を演じているのを観ているのですが、姿も声も中性的でスマートでどセクシーで…ていう印象があったので、大人なスリルミーを想像していて、その想像が見事に打ち砕かれたので序盤からびっくりの連続でした。ものすごく子供っぽい<私>で、恐ろしくIQの高い方によく見受けられる先天的な感情の欠落感があります。<彼>にしたことに対し、何の罪悪感も持っておらず、ひたすら純粋に「僕たちの幸せのためにこうしたんだよ?何が悪いの?」っていう感じでした。そして、他の回を観た方によると”大人ネイサン”な回もあるらしく…しかもそれをマチソワで変えてきたりするらしく…すごく上手な俳優さんだっていうのはわかってたんですが、こういうのもできる方なんだって驚きました。そんなに色んな顔を見せられたらハマってしまうに決まってる。恐ろしい才能を持った方です。しかも歌声もあんなに美しいだなんて。どういうことなんだ。 

再会した<彼>の背中に無邪気に抱きついたり、《Everybody wants Richard》は駄々っ子のような歌い方で。もともとこの曲自体、<彼>の周囲の人をバカだとかゴミだとか言ってて子供っぽい歌詞なんだけど、本当ジェボムさんは小中学生みたいでした。痛切な感情っていうよりは「意味わかんない!」って怒ってる感じで、行こうとしたサンユン彼を「通せんぼ!」って感じで愛嬌振りまいてみせたりと、どこか揺るがぬ自信がある<私>。放火誘われるとこも「あらっそあらっそ〜」って拗ねた言い方。《炎》でも「そんなんどうでも良いから早くこっち見て」って頬を膨らましてて。わかりやすく素直な感情表現がとてもかわいい。

そんなジェボム私をサンユン彼は完全に舐め切っていて、煙草の煙を吹きかけていじわるしたりと、すべて思い通りになる相手と子供扱いです。確かにあんなふうに振る舞われたら侮って調子に乗ってしまうのも無理ないのでは…と思います。 《Thrill Me》の序盤はまだ愛嬌と説得でほだされると信じているような語りかけ方からの、力任せに鞄を投げつけられ、「僕を見ろ」で怒り爆発。そこからの2人の応酬がすごかった。2人ともブチ切れながらネクタイ外し、「集中しろ、僕に」は泣き出しそうな言い方。暗転直前に彼がニヤリ(この流れ自体がサンユン彼の計算通りだったんですね…?)というところまで、スリリングですべて良かったです。 

終盤、舐め切っていたジェボム私にコントロールされていたと知ったサンユン彼のショックはものすごく大きかったようですが、あまりに純粋で悪意のないジェボム私の顔に毒気を抜かれたというか、ネイサンがこういう人間だったことに気付かなかった自分が悪いと諦めたような表情。自分の欲望のための玩具としか思っていなかったネイサンを初めて人間として認識したようにも見えました。ラストの「間抜け面で鳥なんか見て」がすごく優しい言い方で、そんな<彼>に再会できて、もう自分だけのものだというジェボム私の幸せそうな表情で幕。 

【動画】スリルミーTV - キム・ジェボム、チョン・サンユン編

 

◆5月20日 夜公演  <私>カン・ピルソク <彼> イ・ユル 

image

ピルソク私は、おそろしいほどにスマートで母性あふれる<私>。性急に求めるのではなく、じりじりと追い込むように、時には笑顔で<彼>に迫ります。<彼>のことは自分が一番わかっているし、自分と共にいることが<彼>の幸せなんだっていう確固たる自信が滲み出ている<私>でした。リチャードはわがままでしょうがないな、だけどちょっと反抗期なだけで、当然最後は僕のところに戻ってくるでしょう?っていう感じ。ジェウン私とはまた違う意味で「強い」。母の強さ。しかも超絶かわいい乙女な笑顔を見せてくれる…。

そんな母性の<私>を際立たせるのが、でかいワンコ系のユル彼。ユルさんの人の良さそうなお顔立ちもあって、悪ぶっていても無理してる感じが出てるし、ちょっとこじらせちゃっただけで本当は良い子なんだよねぇ、よしよしってしたくなる。正直虫も殺せなさそう。他の<彼>は結構突き飛ばしたり殴ったり蹴ったりと暴力をふるうんですが、ユル彼はそれもほとんどないし。歌声に関しても2人で歌うと完全に<私>が押していて、それも含めてこのペアだなぁという感じでした。

 《炎》でも「触って」⇒「もっとやさしく頼んでみろ」⇒「早く僕を抱きしめて」で全然やさしくなってないからな。そして《契約書》前のシーンですよ。「これ何?」でするっと隣に座るピルソク私⇒彼「超人はお休みになる」⇒私「ちょあ!(膝枕でニコニコ待機してる)」⇒彼、膝に頭をのせて「(よっこらしょ...ってなんでやねーん)俺1人で!」っていうコントみたいな流れが面白すぎました。「ここにいろ」と言われニコニコで隣に座り続けるピルソク私。「あっち」って何回言われても退かない。終始ネイサンのペース…。《Thrill Me》後、ユル彼のライターから火を貰い、超満足な顔で煙草を美味しそ〜にふかすのも笑う。さっきまで凄い勢いで迫ってたのに、何その余裕の表情…。 あと《I'm Trying To Think》も面白かった。取調べ後のピルソク私は本当に憔悴していて、「僕のことは一言も話すな」とか言ってくるユル彼に呆れ怒りモード。ユル彼に顔を見せないよう手で顔を隠して「君は本当にすごい」⇒ユル彼の言うことを投げやりに復唱⇒「マニキュアも♪」からなぜかめっちゃ乗ってくる⇒「こうですか?わかりません」ってわざとらしく演じといて⇒警察署では本気出す。ユル彼だいぶ舐められてる。本当に恐ろしい<私>ですよ。 

終盤のユル彼はものすごく弱くて情けなくて、《Keep Your Deal With Me》に入る前は唸るみたいに悔しさを滲ませる。「強くなるんだ、僕のように」のところも<私>に背を向けて思いっきり眉尻を下げてぐすぐす泣いてるからもう...。「怖いんだ」。だよね、知ってる!対してピルソク私は終わりに向かうにつれ淡々とした話し方に。少し微笑んで、恐ろしいほど落ち着いた表情で、ユル彼に叫ばれてもぴくりとも感情を動さない。「あの弁護士、僕がなりたかった弁護士なんだ」の後、長い沈黙があったのが印象的でした。母のようなピルソク私、ユル彼の夢を応援する人生を送りたかっただろうに。審議官に対しても絶対に心の内は見せないピルソク私。<彼>を心から愛し守ろうとした<私>だし、失ったことは哀しんでいるけど、後悔はないというふうに見えました。 

【動画】Everybody wants Richard カン・ピルソク、イ・ユル(2017年プレスコールより)

【動画】スリルミーTV 2017 - カン・ピルソク、イ・ユル編

 

◆4月15日 夜公演 / 5月21日 昼公演  <私>チョン・ウクジン <彼> チョン・ドンファ

image 

唯一2回観たペア。2人とも拝見したことがなかったので優先度は低かったのですが…ウッチンがあまりに良くて、すっかりはまってしまいました。10周年キャストの中で一番若いペア。2人とも2014年にスリルミー初出演。その時はドンファさんは<私>を演じてられました。プライベートでも仲が良いそうで、スリルミー以外でもよく共演してられるようです。  

4月に観たウッチン私は、典型的なサイコパスでした。というか、先天的に壊れてる感じのジェボム私に対して、後天的な歪みに見えたので正しくはソシオパスですかね。<彼>にのめり込んでしまったばかりに、<彼>が消えた1年の間におかしくなってしまったんじゃないかと思いました。無邪気に愛嬌を見せる傍ら、肝心なところでは腹の内を読ませないウッチン私。少し呆れたような話し方をしたりとか、懐柔しようとする<彼>に対して落ち着き払った表情をしてたりとか、実は<彼>のことを侮っているのが漏れてます。《My Glasses/Just Lay Low》の「僕らだと?いや、お前だ」のところ、はじめは観客に背を向ける形で表情が見えないのですが、ゆっっくりと振り返り表情のない顔で「の(お前)?」っていうの怖い。 

ドンファ彼は自分の魅力を完全に理解して最大限に使ってくる狡猾な<彼>。ウッチン私が素朴な青年って感じなので、華やかな容姿のドンファ彼とは対称的です。自信に溢れた仕草とか、悪魔的な笑顔とか、エキセントリックで何考えてるのかわからなくて、人間離れしてます。クズだってわかってても惹かれてしまうんだろなっていう謎の説得力は、もうドンファさんの持ち前の魅力によるものでしょうね…。 この時のドンファ彼は<私>に対して結構優しくて、それなりに恋人関係を楽しんでるように見えました。この2人はフィジカルな絡みがすごく多くて、手を触ったり繋いだり、頬を撫でたり、《炎》終わりでもキスするし、「誘拐だけしよう」のところでもキス。取調べ前にもキス。ほとんどの場合、ドンファ彼が<私>を操るための手段としてやっているのですが、まんざらでも無い感じでいかにも若いカップルみたいな空気も流れていました。《炎》終わりはいたずらっぽく2回ついばむようなキスをしてたのがかわいかったです。あと《Thrill Me》終わりの暗転直前にすごい挑発的な顔をしてて、<私>の要望に応えるのが嫌なだけで行為自体は嫌がってはないんだなと。それから一番びっくりしたのは、《計画》のところで<私>を殺人に誘うとき、後ろからウッチン私のズボンのポケットに手を入れて腰を…(以下自主規制)とか、血のサインの時のナイフを…とか、よく思いつくよね…。とにかくわかりやすく色仕掛けをしてくるゲスい<彼>でした。 

なのに終盤、蓋をあけると利己的な欲望しかない2人で、ドンファ彼は醜悪な姿で<私>を傷つけるし、ウッチン私は護送車のところから本当に晴れやかな顔をしていて、まるで目の前の<彼>も見えてないかのように自分だけの世界にいました。「鳥籠の中に閉じ込められたつがいの鳥のように」のあたりでは鳥籠が見えてるみたいに薄ら笑いで一点を見つめていて、ドンファ彼は「なんだこいつ、何を見てるんだ?」って混乱した顔。もうほんとここからのウッチン私の表情が怖くて忘れられない。修復不能なほど完全壊れてしまってる…。そして現在に戻り審議のシーンでは「自由…自由…」で目を輝かせて笑っていて、もうずっと彼(幻)と一緒に生きていけるハッピー!みたいな、狂った<私>のためのハッピーエンドでした。自分が好きだった<彼>しか見えておらず、そこで時が止まってしまった人なんだなという感じ。そこにあるのは愛ではなく執着と欲望だけで、自分のものになってくれない<彼>を憎んですらいたんじゃなかろうか。 ウッチン自身がすごく健康的で愉快で澄み切った人というイメージなので、あんな闇を見せられるとは…ヤンデレ好きなので、観終わってからじわじわと来てしまってもう駄目でした。あと普通に声がめっちゃ好きなんですよね。

そして5月のウッチン×ドンファはというと、先月観たウッチン私とは完全に人が変わっていました。健気に全力で<彼>愛していて、だけど少しも報われなくて可哀想で可哀想で、カーテンコールで中の人が仲睦まじい様子を見せてくれなかったら、観劇後すごい落ち込んでしまっただろう…という切ない回でした。 <私>の”身を切るような片想い”という演技プランへの変更に伴ってか、ドンファ彼もかなり変わっていて、気分屋で暴力的な危険人物度が増していました。いつキレるかわからないピリピリした空気があって、先月はまんざらでも無さそうなとこもあったのに今回は完全に手段としてスキンシップしてたし、本気でネイサンを蔑んでいるようでした。ウッチン私も<彼>の機嫌を損ねることを恐れていて、一挙一動に過敏に反応。ドンファ彼が<私>主導で事が動くことを絶対に許さないので、触りたくても触れない…と手を迷わせているところがよくありました。 

強盗の後、鞄を取れと言っても動かずにいて、手渡す直前に床に落とす<私>。ドンファ彼は怒ってその鞄を思いっきり客席近くまで蹴り飛ばし取りに行かせていて、色んな意味で緊張感が。その後も、盗品をそこら中にばらまきながら不機嫌そうに鞄を漁る姿が一触即発って感じで怖い。<私>は従順で常に耐え忍んできたので、《Thrill Me》では感情を爆発させていて終盤涙声。ドンファ彼は<私>の要求に応えるのが心底嫌だという顔をしていました。 「ここまでは完璧だ」を復唱するところ。ウッチン私は「あ〜ちぐんかじわんびょっけ」と小声で<彼>の言い方をそのまま真似していて、ドンファ彼「何か言った?」という顔。 公園シーン、憔悴しきってる<私>の「よくやったよね?」に対し、ドンファ彼は抱きしめて頭を撫でながら「ああ、よくやった」と言うのですが、その撫でた手で髪を掴み、耳元で甘く囁くみたいに「このクソ野郎」って言ってたのがすごい怖かった。そのあともベンチに引き倒したり、「なんで僕にこんなことができるんだ?」と言う<私>を脱いだジャケットで殴りつけ、唾を吐いていく非情さ…。

最後も出し抜かれた悔しさを滲ませ、<私>を侮蔑の目で見ながら 去って行きました。 結局どんな手を使っても<彼>を手に入れることができなかったという、哀しいラスト。ぼろぼろに傷つけられながらもまだ<彼>を想うウッチン私が痛々しくてつらい…。 このペアは一度たりとも心が通じたことのなさそうなのに、《超人たち》の「僕らは一つ」で恋人つなぎをしたり、上手と下手で動きがシンクロしてたり、《Keep Your Deel With Me》のロングトーンなど完璧に調和した歌声を見せたりと、端々でニコイチを表現してくるのが最高にエモい。もう本当に大好きです。あと100回観たかったです。

今回のキャストの中では若手なので、また出てくれるんじゃないかと淡い期待をしていたのですが、マッコンで「これが最後」だと言ってらしたそうで…。2016年に出会えていればなぁと後悔しきりですが仕方ないです。2回観られた幸運を喜んでおきます。でも思い出しながら書いてたら恋しくなってきました。正直もう一回3月くらいからやりなおしたいです。 

【動画】Everybody wants Richard チョン・ウクジン、チョン・ドンファ(2016年プレスコールより)

【動画】A Written Contract チョン・ウクジン、チョン・ドンファ(2017年プレスコールより) 

【動画】スリルミーTV 2016 - チョン・ウクジン、チョン・ドンファ編

【動画】スリルミーTV 2017 - チョン・ウクジン、チョン・ドンファ編