Things I Didn't Know

BTSと韓国ミュージカルが好きです。

7年勤めた会社を辞めて韓国に来た話

 初めて韓国に渡ったのが、2012年の秋。それから数十回の渡韓を重ねた私ですが、ついに今年5月、初めて片道航空券でソウルに来ました。

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 今はソウルのとある大学にある語学堂に在籍していて、先日最初の学期を修了したところ。語学堂はレベルに応じて1級〜6級まであり、年間4学期に分かれています。夏学期から秋学期のあいだには約3週間の休みがあるので、今の時期は故郷に帰っている人が多いのですが、私はソウルに留まってのんびりしています。

 行ってみたいところはたくさんあるけれど、毎日出かけていたら体力とお金が保たない。そのうえ今日は雨も降っているので、大学の図書館に席を取って韓国での学生生活についてブログを書いてみることにしました。

 

 「ソウル暮らし始めました」とTwitterで報告した時、応援の言葉をかけてくださった方々への報告がずいぶん遅れてしまった気がして、少し申し訳ない気持ちがしてます。とりあえず最初に伝えなきゃいけないのは、「ここに来て毎日幸せで、楽しい」ってことです!韓国語の勉強に集中できること。いろんな国から来た人と韓国語で話ができること。日常的に学食や図書館を使えること。旅行では行けなかった場所を時間をかけて訪ねられること。新しい友達ができること。会いたかった人に会えること。「来てよかった」と思わない日はないです。

 私が通っているのは比較的こじんまりとした大学で、それゆえに大学を取り巻く街もコンパクト。観光目的で降り立つことはないだろう街ですが、それなりに何でも揃っていてちょうどいいのです。夜遅くまでやってる大型マートもあれば、現金しか使えない昔ながらの八百屋さんもあり。トゥーサムプレイスやサブウェイみたいなチェーン店もあれば、気さくなイモニムが一人で営む美味しい定食屋もあり。ソウルの端っこではあるけど、路線的には便利な立地。公共交通機関の料金が安いので、遠出することへのハードルが低くていい。

冷麺ととんかつ

이열치열(以熱治熱=熱を以って熱を治す)と言うけど、私は冷たい麺ばかり食べています

 わざわざこの大学を選んだのは、語学堂の正規課程を修了したあとに行きたい高級課程があるからです。語学堂にもさまざまなスタイルがありますが、ここは特に말하기(スピーキング)と쓰기(ライティング)に重きをおいた学校で、レベルテストも面接と作文のみ。읽기(リーディング)と듣기(リスニング)ばかりやってきた私にとっては、苦手な部分を強化してもらえるベストな環境なんじゃないかと思います。教科書のテーマは歴史・科学・経済・教育など多分野。日々の予習復習やテスト勉強に加えて、討論準備に作文課題、発表準備と、なかなかに忙しない2ヶ月半でした。もちろん忙しかったのはがっつりオタ活をやってたせいでもあるけど。

 私のクラスは上級なので、クラスメイトは韓国での大学進学か就職を目指す人がほとんどでした。その大部分がアジアの学生。級が上がるほどにアジア人の割合が増えるのは、どの語学堂も同じみたいです。だいたいみんな、韓国に興味を持つきっかけはK-POPや韓国ドラマだったと言います。文化のチカラ、すごい。20代前半の学生が多く、私はクラスでも圧倒的オンニだったんですが、好きな国の文化を享受しながら未来を拓くために頑張る子たちにたくさんパワーをもらえました。ショート丈のトップスを着て、チャームがいっぱいついたクロックスを履いて、인생네컷(人生4カット/韓国のプリクラ)をストーリーに上げる女の子たち、最強ですよね。みんな全部うまくいって、ずっと幸せでいてほしい!

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 毎週金曜日にある討論の授業では「外国語の早期教育」とか「動物実験」といった社会課題について賛成・反対の立場に分かれて話し合うのですが、国籍が多様なだけに視点もさまざまで、勉強になることばかり。日本人以外のクラスメイトとも大きなストレスなく意思疎通ができるので、個人的にはそれなりに話せるレベルになってから来てよかったと思ってます。

 ちなみに教科書の「歴史」の項目には、朝鮮近代史がほとんど出てきません。日帝強占期(日本統治時代)についてはほんの数行だけ。それでも先生からは「居心地が悪くなる学生もいるかもしれないから、近代史について話す時は配慮しましょうね」という前置きがありました。確かに歴史に関心がない人が多いように見えたので、短い授業時間の中で近代史について話すのはトラブルの元だという気もします。だけどこうしてずっとふんわりと避けていくのは、この先ずっと韓国社会と関わっていきたいという思いをもつ学生にとって良いことではないんじゃないかなと、モヤモヤも残る時間になりました。

▼何度でも推薦したい。日韓関係に向き合うための、「最初の一歩」になってくれる入門書です。

 主担任はとても熱心でパワフルな女性でした。マシンガントーク&身振り手振りで、緩急のある飽きない授業をしてくれます。ゆかいな息子エピソードとともに教えてもらった慣用句は、いつまでも覚えていられそう。ジョングクが好きだそうで、よく授業中にBTSの話題も出してくれました。「作文にこそあなたたちの本当の語学力が表れると思う」と言って、作文課題に丁寧なフィードバックをくれるのもありがたかったです。(1人あたり30分ほどかけて添削しているそう)

 たかだか3ヶ月の受け持ちなのに、語学堂の先の進路まで見据えながら熱意をもって教えてくれた先生のおかげで、夏学期は無遅刻・無欠席。ついでに最終的にクラス1位の成績で、おこづかい程度ではあるけれど奨学金ももらえることになりました。嬉しい。

 

 とはいえ韓国での生活は、楽しいことばかりではありません。一番の悩みは住居のこと。詳しい内容は避けますが、住居を手配した日本のエージェントに信じられない対応をされてブチ切れたのが訪韓初日でした。その問題は翌月には解消したのですが、その他にも少しの問題があって...もしかしたら冬には引っ越しをするかも。

 それから物価と円安。“何もかもが日本よりも安い”なんて時代ははるか昔です。どうやったら手頃な値段でそれなりに栄養を取れるか、毎日悩みながら生きてます。野菜は一人暮らしを想定した売り方をされていないので、『何食べ』のシロさんみたいに友達と一緒に八百屋で買い物してはんぶんこしたり。結局学食が一番安いので(キンパ2,000ウォンなど)、すごく美味しいってわけではない学食メニューで済ませてしまったり。

チャメ

5〜8個で売ってるチャメ。大家さんが分けてくれました。

 もともと韓国料理が好きなので、「食については心配いらないだろう」と思っていたけど、全然日本食恋しい。日本から遊びに来るお友達にせんべいや味噌汁なんかの食材を届けてもらっては、家で手を合わせていただいてます。無駄に韓国人YouTuberの日本食モッパンを見ては、「ローソン行きたい...」とか呟いています。

 だけどこんな日常のすべてが貴重で、身になっている気がします。だってそもそも私、生まれた街を離れて暮らすこと自体が初めてなんですよ。

 

 「退職しよう。韓国に行こう。」と決めたのは、実際の退職日から15ヶ月前のことでした。「いつかは仕事の形を変えたい」って思いはずっと心のどこかにあったけれど、仕事や会社がイヤになったわけではないので、できる限りチームへの影響が少ないタイミングを計ったうえで、長い時間をかけて心の準備をしてきました。

 韓国語レッスンを受け始めた5年前には、考えもしなかった韓国留学。当時は「そんなに韓国が好きなら、いつかは住みたいんじゃない?」と聞かれて、「いや全然。旅行で十分!」と答えていたのを覚えてます。いやぁ、人の心って変わるものなんだな。とんでもなく増えた業務量からの逃避や、コロナ禍で韓国旅行ができない悲しみ、その反動で急速に伸びた語学力など、たくさんの要素が重なって心が変わっていったのですが、何より大きかったのは前職で得た仕事のスキルに確信が持てたことです。新しい挑戦が上手くいかなかったとしても、生きる術はある。そう思えるようになって初めて会社を離れる選択ができたので、今は7年間の会社生活すべてに感謝しています。

 とにかく人に恵まれていたから、上司や同僚たちと離れるのは寂しかった...。退職を後悔することはなくても、ふと「戻りたい」と思うことはこの先たくさんあるんじゃないでしょうか。

 お互いを理解して仕事がしやすい環境をつくろうと、いつも努力してくれた上司と同僚たちのおかげで、仕事を通して自分を知ることができました。自分は何が得意で、何が不得意か。何に喜びを感じて、何にストレスを感じるか。それがわかったから、次にどう進むべきかが見えてきたのかも。苦手なマルチタスクにパニックを起こしながら、クライアントの無茶な要求に応えるために頭を悩ませながら、なんとか7年続けて来られたって自信が、私を韓国まで引っ張ってきてくれたんだと思います。

 なんだかんだで面白い仕事だったな。忘れないようにしたいな、いろんなこと。

 

 言うまでもなく、BTSの存在も大きいです。韓国語の勉強を途切れることなく続けて来られたのはバンタンのおかげなのだから、バンタンが連れてきてくれたようなもの。バンタンを介して出会った方々と過ごす時間も、バンタンの足跡を追って新しい場所に行く時間も、すべてが幸せです。

 BTSとミュージカルをはじめとして、韓国には私の好きなものがたくさんあります。韓国語の能力があがるほどに、本屋で、劇場で、博物館で、映画館で、食堂で、吸収できるものが増えて、人生が豊かになっています。ここで学んだことが結果的に職業につながらなかったとしても、得られた語学力が財産になることは間違いありません。

 今学期だけでも、韓国語でニュースを見たり、記事を読む時のストレスがずいぶん軽減された気がするよ。今日は福島での処理水放出についての報道をずっと見ていました。母国以外の国の視点からものごとを見る術を身につけるのも、このどうしようもない世界を生き抜くうえで大切なことですね。

 

 そうそう。日本を立つ日の朝、「じゃあね、行ってきます!」と玄関を開けたら、空にダブルレインボーがかかってたんですよ。これまでの人生でも見た記憶がないような、きれいな二重の虹!迷信や占いを信じる方ではないけど、この"幸運の象徴"は都合よく信じてみようと思いました。

 

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